アバウト

ご挨拶と自己紹介

店主である私は、2011年前後から余暇を利用して遊廓・赤線跡の同定、撮影、聴き取り取材などを始めました。当時は出版や書店には関わっておらず、自身の職業とは全く無関係でしたので、単なる趣味でした。

可能な限り、積極的に取材を進め、約2年間で全国の遊廓・赤線・青線があった地域を約300箇所ほど回りました。取材のスピードを上げるほど、調査精度や深度との引き替えになりますが、それでもスピードを優先としたのは、近年、多くの遊廓・赤線建築が消失し、また大変残念なことですが、当時を知る方々も鬼籍に入りつつある現実があったためです。(2016年現在、売春防止法が完全施行された昭和33年当時に20歳であった方は78歳を迎えています)

2015年前職を辞し、出版社「カストリ出版」を立ち上げ、そこで発行する遊廓文献を販売するために構えた書店が当店「カストリ書房」です。

カストリ書房とは

当店カストリ書房は、遊廓・赤線・歓楽街といった遊里史に関する文献資料を専門に販売する書店です。遊里史専門出版社であるカストリ出版が直営しています。

取材・調査→出版→販売と、一連の入出力を一つの傘の下で回していることになります。(意図したものではありませんでしたが結果的には、こうなりました)

2014年、カストリ出版は、それまで幻とされてきた『全国女性街ガイド』を、およそ約60年ぶりに発掘・復刻しました。戦後の日本に存在した売春街──いわゆる赤線──約350箇所を、著者の渡辺寛なる人物が取材・ルポタージュした文献で、国会図書館にも蔵書がなく、古書店でも極めて入手が困難であること、さらにその内容が内容であることから、〝幻の奇書〟とされてきた資料です。

また、復刻だけではなく、新刊として全国の旧遊廓・赤線地帯の街景と室内を撮影した写真集『遊廓 紅燈の街区』を同年に個人制作し、国会図書館へ納本しました。

カストリ出版で復刻対象とする文献は、一般書店や古書店、さらには全国の公共図書館はおろか国会図書館、大学付属図書館にも所蔵のない貴重書を主としています。2016年現在では約15タイトルほど揃えています。

2014年から2016年にかけて、ネットによる直販と、直接契約を結んだ書店様にて販売を続けてきましたが、より販路の拡大と、お客様への便宜向上を図るため、実店舗としてオープンするに至りました。

なぜ文献を復刻・販売するのか?

先に述べた通り、近年、多くの遊廓・赤線建築が取り壊されています。賛否両論あるかと思いますが、社会的意義を失った産業は衰退し、またその器である建物(さらには街)も消滅してくことは免れ得ません。「残念だね。何かに再利用できたら良いのにね」という言葉を耳にすることも少なくありませんが(私も気持ちの上では大変残念ですが)、「不可能」「残し得ない」という認識を持っています。

これも先に述べた通りですが、全国の遊廓・赤線跡を取材するうちに、そのテーマの奥の深さと、何よりも数の上では遊廓は500箇所以上存在しており、戦後ともなると赤線やいわゆる青線などの集娼地帯が2,000箇所弱あったことを知るに及び、もはや「一人で調査するのは無理だ…」と白旗を揚げました。一人で調査することは確かにやり甲斐があり、困難がありこそすれ、その困難こそが同時に喜びではありますが、消失していくスピードを鑑みると、そうも言っていられなくなってきました。

調査のスピードと精度を上げるための何か良い方法はないものかと色々考えました。まず思いついたのは、同好会といった態で組織化・グループ化することです。しかしそれも到底現実的ではないことは明らかでした。私も含めて、ネット上で遊廓・赤線を調査する人は、趣味として行っており、誰かが音頭を取って進めても却って窮屈になるに違いありません。

翻ってネットの状況は、遊廓や赤線もいわゆるサブカルチャーに枠に取り込まれ、かつてのようなキワモノ趣味ではなく、一般化が進んだように見受けられます。現在、遊廓・赤線をメインのテーマとしてないサイトであっても、取り上げていることが多くなりました。

情報の総量としてはかつてのどの時代よりも膨大なものとなりましたが、量に対して質は追いついていないようにも見受けられます。例えば、特定の地点が多くのサイトに取り上げられ、コメントも同様のものが掲載されていることも少なくありません。具体例としては、木村聡氏の『赤線跡を歩く』と同一の地点、同一のカメラアングル、同様のコメントだったりします。孫引き曽孫引きされて、情報が劣化していくことは、もはやネットの宿命かも知れません。

ただし、これを書き手のモラルその他に原因を還元することは不毛に違いありません。根源的な理由はそもそも「情報が少ない」ことです。他のジャンルであれば、自然の流れで「集合知」を待つことが本来かも知れませんが、殊このジャンル、遊廓・赤線に限って言えば、消失スピードがそれを待ってくれません。

以上のことを理由として、私が好んで止まない「遊廓・赤線」というテーマに対して、私ができ得る(かもしれない)最大の貢献として、調査にとって有用となる文献の発掘と復刻をすることにしました。個人単位では到底さばききれない調査対象数があり、研究者でもなく研究組織に属さない自分では組織化も難しい。ならば、自分が有用な文献を復刻し、それを届ける。文献を手に入れた方達が、これまで以上の調査が可能になることを期待しました。(なによりもこれまで以上に「楽しい調査」となることを期待しています)

選書のお手伝い

上段でご説明の通り、ラインナップは多くの選択肢を実現できるよう努めていきますが、「オススメの本はなにか?」「○○について知りたい」といったご要望にもお応えできるよう、選書のお手伝いも致します。

これは一般の書店ではできない、専門店ならでは、さらに私自身が遊廓を調査している経験ありきのサービスかとおもいますので、ご遠慮なくお問い合わせください。

自分の勉強も兼ねて、全力でお手伝い致します。

場所

カストリ書房のある場所は、日本史上もっとも有名な遊廓であろう「吉原」です。かつて「伏見通り」と呼ばれていた通りで、現在では僅かとなりながらも、赤線時代の雰囲気をもっとも残している区域です。伏見通りは戦後に発展した通りで、ちょんちょん格子(小店〉が多かったようですが、大店のあった場所は立地条件が良かったために、却ってかつての赤線建築はどんどん取り壊されて、全く残っていません。

また、多くの方が場所柄、治安の悪さといったものを懸念するかも知れません。私自身は個人的にも吉原に住んでいましたが、0時きっかりに特殊浴場は閉店し、その後はひっそりとしたもので、少なくとも吉原は巨大ターミナル駅近くにあるような繁華街とは全く性質の異なった街で、治安の悪さを感じることはありませんでした。また(全面的には歓迎できないことかも知れませんが)、そもそもご年配の方が多い街なので、夜中に酔っぱらいが騒いでいたり、コンビニ前に屯しているような風景もありません。

カストリ書房の位置は、交番から至近の位置ですので(これは吉原に限らないことですが)、安心して来店頂けるものと考えています。

イベント

「取り扱い商品」のところでもご説明しましたが、古書も扱います。ただし、古書が抱える大きな問題は、古書がいくら売れたところで、著者や出版社に利益が循環されないことです。弊社は書店と同時に出版も兼業していく業態ですから、古書の旨味だけを吸い上げるのは、商道徳というものがあるとすれば、看過できないようにも思えました。

そこでイベントを実施し、その著者を招いて即売などすることで、決して大きな規模でありませんが、著者や出版社へ利益を還元できるのでは仮定しました。

以上のことは、読者には関係のない「裏側」のことですが、座学に留まらないトークイベントの機会を提供することで、一般書店では体験し得ない、「遊廓専門書店」ならではのイベントを催すことができればと思います。

以上、カストリ書房の自己紹介となります。変化を恐れず、常に最良となるよう努めたいと思います。

2016.9.3
カストリ書房
店主・渡辺豪

1 件のコメント:

  1. 始めまして。本日、漫画家富永一朗さんが亡くなったニュースを見て、画像検索で貴店に辿り着きました。「アバウト」を拝読して、共感を覚えました。淡々とした中にユーモアをを交えた文章に、並々ならぬ情熱を感じました。こういう文化の研究は大変重要だと思います。こうした文化の中にこそ、表向きの思想やイデオロギーでは分からない人々の真実があると思うからです。
    私も古書を探すのが好きで、戦前の雑誌を何冊か持っています。
    文京区在住で、近いので、いずれ機会をみて伺いたいと思っています。

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